─ 私が唯一、最後まで見ることができなかった映画「鬼畜」に思うこと ─
2024年09月27日
大人の身勝手で子供たちが不幸になる理不尽は耐え難く…
かつて映画「鬼畜」(原作・松本清張、監督・野村芳太郎、松竹・1978年)のDVDを知人から借りて見始めたところ、あまりにも惨む ごい内容だったことから途中で目を背けて鑑賞を断念したことがあります。不倫が招く悲劇があまりにも赤裸々に描かれていたからにほかなりません。しかも最大の被害者は不倫によって生まれた何の罪もない子供たちでした。
映画「鬼畜」は小さな印刷所を営む竹中宗吉(緒方拳)のもとに妾めかけの菊代(小川真由美) が3人の幼い子供たちを連れて押し掛けるところから始まります。
宗吉は菊代と不倫関係にあり、彼女との間に3人の子供が生まれたにもかかわらず、その責任を果たすことなく家族のもとで日々を送っていました。ところが自宅に押し掛けてきた菊代は援助が滞っているがゆえの苦境を訴えた末に、なんと子供たちを宗吉に押し付けて去ってしまったのです。宗吉と菊代の間に子供はいませんが、平穏な生活は一瞬にして崩壊してしまいます。
そこには自分と隠し子3人の面倒を見ない宗吉の冷たさを詰りヒステリックに責め立てる菊代と、それに輪をかけた勢いで夫と彼女を恫喝する妻・お梅(岩下志麻)の姿がありました。宗吉は二人の女性の間で情けなくもおろおろするばかりです。
当然ながらお梅は7年間も夫の宗吉に騙されていたことに激怒し、その腹いせで妾の子供たちに対して過酷な仕打ちをします。端的にいえば、せっかんです。このあたりの描写は現代でいえば明らかな幼児虐待であり、今ではきっと映倫の審査に通らないことでしょう。私はその場面を直視することができませんでした。
これは日頃の調査活動を通じていえることですが、不倫相手との間に子供が生まれるケースは映画やドラマの世界だけの話ではなく、現実社会でも少なからず同じようなことが起きています。フィクションだと一蹴するのは早計です。
映画の中では、まず1歳の庄二が栄養失調で衰弱死してしまいます。ところがこれは不審な死でした。ある日、寝ている庄二の顔の上に故意か偶然かシートが被さって亡くなっていたのです。
宗吉はお梅の仕業ではないかと疑いながらも、そのことを口に出せません。お梅の「アンタもひとつ気が楽になったね」との言葉に宗吉は戦慄を覚えますが、同時に密かな安らぎを覚えたようでもありました。
宗吉は子供たちに対して何らかの情を持ちながらも、経済的にも精神的にも追い詰められ、長女の良子を東京タワーに置き去りにすることを決意。
なんとなく不穏な空気を察知してか自分から離れようとしない良子をなだめすかし、宗吉は一人こっそりエレベーターに乗って去ろうとしたところ、たまたま振り返った良子の悲しげな眼差しと、直後に見せる宗吉のパニックに陥った表情が人間の業の深さを物語っています。
良子が突然いなくなったことについて、宗吉は長男の利一に「よそで預かってもらった」と言い訳をしますが、きょうだい思いで利口な利一の白目がちな視線は、夫婦の企みを見抜いているかのようでもありました。
そして数日後、宗吉は利一を新幹線こだま号に乗せて北陸海岸へ向かうのですが…。私は胸が締め付けられる思いで、DVDの再生を止めました。以来、私はこの作品をいっさい見ていません。
理不尽にも不倫に溺れた親の罪を背負わされ、絶望的な状況に追い込まれていく子供たちの様子を直視することが、私には到底できなかったのです。…続きは本誌で