2025年参院選が映し出す日本の構造課題
2025年08月27日
7月20日投開票の参議院選挙は、日本の政治構造の大きな、そして根本的な変化を突きつけたのではないか。とりわけ、参政党が約20万票という少なくない票を獲得した事実は、これまでの政治学の常識では捉えきれない現象であった。選挙結果は、単なる一過性の現象なのかどうか。それとも、日本社会の地殻変動が、目に見える形で現れてきたのか。今回の選挙を切り口に、田口氏が常々、問題意識を抱いている教育、経済、そして政治のあり方まで、少し踏み込んで〝講義〟をする。
変質する投票行動とポピュリズムの影
今回の選挙で最も象徴的だったのは、参政党の躍進に代表される、いわゆるポピュリズムの日本的な展開です。これは、アメリカでトランプ大統領の支持層が草の根から選挙活動に参加したように、これまで政治に無関心、あるいは半ば諦めて投票に行かなかった層が、新たな形で政治参加を始めたことを示しています。
彼らの行動様式は、従来のものとは全く異なります。かつての選挙は、会社や労働組合、あるいは地域コミュニティの推薦といった、いわば日常的な人間関係に基づいていました。しかし、最近の選挙は、SNSを通じて情報を得て、候補者と直接的な交流がほとんどないまま投票するバーチャルな投票行動が主流になりつつあります。参政党の候補者は、既存の地方議員のような強固なネットワークを持たずとも、多くの票を獲得しました。これは、政治参加のあり方が根本から変わったと言ってもいいかもしれません。
この変化を牽引しているのが若年層です。出口調査によれば、本県では20代の24・9%、30代の20・6%が参政党に投票したとされています。彼らは、日常的に政治家と接点がなく、SNSを主要な情報源とし、特定の政党に縛られず選挙ごとに投票先を変える傾向があります。
一方で、高齢者層は依然として後援会の集会に参加したり、日頃からの付き合いを重視したりする伝統的な投票行動を維持しています。たとえば、公明党の組織選挙は「フレンド」と言われているようですが、こうした組織選挙がいまなお高齢者には有効なのはそのためです。
投票行動における世代間の相違は、企業や労働組合の「組織票」の力が年々低下している現実とも一致します。もはや、固定支持層を前提とした旧来の選挙戦略は限界に達しており、既成政党はこの厳しい現実を直視し、新たな時代に対応する必要に迫られているのです。
こうした政治の変化は、経済的な中間層の崩壊という、より深刻な社会構造の変化と分かちがたく結びついています。かつてのように、多くの国民が「中流」意識を共有していた時代は終わり、社会が豊かさと貧しさに二極化する中で、政党が「真ん中向き」の政策を掲げても、もはや誰にも響かなくなってしまったのです。
新潟のような地方圏では、その問題はより深刻です。高学歴・高所得層の県外流出が止まらず、地域に残された人々の構成が大きく変化しています。これまでは、高所得者層が多く住む地域は国政選挙の投票率が高く、比較的所得の低い層が住む地域は、身近な地方選挙の投票率が高いという傾向がありました。
しかし、今回の選挙ではその傾向にも変化が見られ、これまで投票率が低いとされてきた層の政治参加が増加しました。これは、既存の政治への不満が、もはや無視できないレベルに達していることの表れでしょう。
社会の「真ん中」が消失し、分断が進む中で、政治が社会を統合する役割を果たすことが困難になりつつある。参政党が掲げる就職氷河期世代への支援といった政策も、即効性のある具体策に乏しく、その実現可能性には疑問符がつきます。しかし、これは既成政党も同様で、誰もがこの構造的な課題に対しお手上げ状態、根本的な解決策を示せていないのが現状です。…続きは本誌で













